- 多文化共生・やさしい日本語
- 2026.08.25
多文化共生で日本人に必要なこととは?「やさしい日本語」から考える、伝わるコミュニケーション

多文化共生についての講座で、「やさしい日本語」についてお話しする機会があります。
その中で、参加者の方から意外と驚かれることがあります。
それは、
「外国人と話すとき、英語を使えばいいとは限らない」
ということです。
長崎県に暮らす外国人の国籍を見てみると、英語を母語としない国・地域の出身者が多いことが分かります。
2025年12月末時点の在留外国人統計では、長崎県ではベトナムが3,313人で最も多く、次いでインドネシア2,648人、中国2,128人、フィリピン1,928人、ネパール1,884人となっています。
もちろん、これらの国の出身者が英語を話さないという意味ではありません。英語を使える方もいますし、日本語をほとんど使わない方もいるでしょう。
だからこそ、「外国人=英語」と決めつけるのではなく、相手が理解しやすい言語や伝え方を選ぶという視点が大切です。
その選択肢の一つが、「やさしい日本語」です。
多文化共生についての講座でこの話をすると、「英語ではなく、やさしい日本語なんですね」と驚かれる方も少なくありません。
でも、ここで考えてみたいのは、外国人に対して「やさしい日本語を使いましょう」ということだけではありません。
多文化共生を考えるとき、私たち自身のコミュニケーションも少し見つめ直してみる必要があるのではないでしょうか。
「指示が通らない」のは、日本語力だけが原因でしょうか
外国人社員を受け入れている企業から、
「外国人社員に指示がうまく伝わらない」
という相談を受けることがあります。
もちろん、日本語能力が関係している場合もあります。
でも、実際にはそれだけではありません。
例えば、外国人社員が日本語学校などで学んできた日本語と、職場で実際に使われている日本語には、大きな違いがあることがあります。
「来てください」と学んできた人に、職場で突然「来い」と言われたらどうでしょう。
日本語を母語とする人にとっては、どちらも意味の分かる表現です。
けれど、日本語を学んでいる人にとっては、学習してきた表現との違いが大きく、聞き取りにくさや戸惑いにつながることがあります。
ほかにも、
- 命令形をよく使う
- つい男言葉になる
- 職場特有の言い回しを使う
- 方言が出る
- 「これ」「あれ」「ちゃんと」など、文脈に頼った表現を使う
など、話している本人にとってはごく自然な日本語が、相手にとっては理解しにくいことがあります。
だから、「日本語が通じない」と感じたとき、相手の日本語能力だけを原因にするのではなく、
「自分はどんな日本語を使っているだろう?」
と、一度立ち止まってみることも大切なのではないでしょうか。
「伝えた」ではなく、「伝わった」を確かめる
やさしい日本語についてお話しするとき、特に伝えたいことがあります。
それは、
相手が分かっているかを確認しながら、コミュニケーションを進めること。
です。
日本語教師として教育実習をしたり、教え始めたばかりの頃、学習者に「分かりましたか?」と確認することがありました。
これは、日本語教師なら一度は注意されたことがあるかもしれません。
「分かりましたか?」と聞けば、たいてい返ってくるのは、
「はい、分かりました」
という言葉です。
でも、教師として経験を重ね、たくさんの学習者とコミュニケーションを取るようになると、少しずつ分かってきました。
「『分かりました』と言ったからといって、本当に分かっているとは限らない。」
そこで、「分かりましたか?」と聞くだけではなく、理解を確かめるための質問を投げかけるようになりました。
「では、次はどうしますか?」
「いつまでにしますか?」
「今の話を、もう一度自分の言葉で説明してもらえますか?」
そうやって、相手が理解したことを確認する。
「分かりましたか?」という一つの質問から、「どうすれば本当に理解できたことを確認できるだろう」と考えるようになりました。
これは、教師として経験を積む中で身についた、大切な視点の一つです。
自分の日本語を、自分で見つめるのは難しい
自分が普段どんな日本語を使っているのか。
それを自分自身で客観的に見ることは、意外と難しいものです。
命令形を使っていることも、方言が混ざっていることも、職場独特の言い回しを使っていることも、話している本人にとっては「いつもの日本語」です。
だからこそ、そこに気づくための視点が必要になります。
自分の話し方を意識して、相手に伝わるように自然と調整できる人もいます。
そういう人は、特別に「やさしい日本語」を学ばなくても、自身で気づいて変えていくことができます。
しかし、多くの人にとっては、
「自分の日本語が相手にどう聞こえているのか」
を考えること自体が、簡単ではありません。
そこで、日本語教師や日本語教育の専門家の視点が役立つのだと思います。
どんな言葉が伝わりにくいのか。
なぜ伝わりにくいのか。
どう言い換えれば伝わりやすくなるのか。
言葉を専門的に見つめながら、コミュニケーションをつないでいく。
それも、日本語教育に携わる私たちの役割の一つだと考えています。
「やさしい日本語」は、外国人のためだけのものではない
やさしい日本語というと、「外国人に分かりやすい日本語」というイメージがあるかもしれません。
もちろん、それは大切な役割です。
でも、やさしい日本語を考えるときに大切なのは、単に難しい言葉を簡単な言葉に置き換えることだけではありません。
相手にどう伝わるかを考えて、自分の伝え方を調整すること。
それは、外国人とのコミュニケーションに限った話ではありません。
相手の知識や経験、置かれている状況によって、同じ言葉でも伝わり方は変わります。
だからこそ、
「自分は伝えた」
ではなく、
「相手に伝わっただろうか」
と考えることが、コミュニケーションの出発点になるのではないでしょうか。
「話しかけやすさ」も、伝わるコミュニケーションの一部
先日の多文化共生の講座では、参加者の方から、
「話し方がすごく聞きやすくて、分かりやすかったです」
と言っていただきました。
そして、もう一つ、
「笑顔が素敵ですね」
という言葉もいただきました。
実は、私は初対面の方と会うときには、意識して少し大きめに笑顔をつくるようにしています。
「話しかけても大丈夫ですよ」という雰囲気が伝わって、相手から話しかけてもらいやすくなるかなと信じているからです。
もちろん、笑顔だけですべてが伝わるわけではありません。
でも、言葉だけでなく、表情や声のトーン、相手の反応を見ることも、コミュニケーションの大切な要素ですね。
多文化共生は、誰か一方が変わることではない
多文化共生というと、
「外国人に日本語を学んでもらう」
「日本のルールを理解してもらう」
ということに目が向きがちです。
もちろん、それも大切です。
一方で、一緒に働く、暮らす、地域で関わるということを考えれば、一緒に暮らす私たちの側にも、学ぶことがあります。
「自分の言葉は相手にどう聞こえているだろう」
「ちゃんと伝わっただろうか」
「相手が分からないとき、別の伝え方はできないだろうか」
そんなふうに、自分のコミュニケーションを見つめ直してみる。
多文化共生は、誰か一方が相手に合わせることではなく、互いにどうすれば伝わるのかを考えていくことなのかもしれません。
そして、そのための一つの方法が「やさしい日本語」です。
多文化共生や「やさしい日本語」について、一緒に考えてみませんか?
合同会社pordoでは、自治体、地域団体、病院、博物館、企業などを対象に、多文化共生や「やさしい日本語」に関する研修・講座を行っています。
単に「こういう日本語を使いましょう」と伝えるだけではなく、それぞれの現場でどのようなコミュニケーションが起きているのかを伺いながら、「伝わる」ためにできることを一緒に考える研修を大切にしています。
「外国人とのコミュニケーションについて、職場や地域のみんなで考えてみたい」
「やさしい日本語について学んでみたい」
そんなときは、お気軽にご相談ください。


